Column

土地と建物と暮らし方について
情報や雑学のコラム。

ドイツ本:フライブルグの都市計画2

(ポイント2)クルマのないまちづくり、の魅力

 

本日のコラム担当は、ドイツ語を趣味で学んで約10年  H  です。

愛読書「フライブルクのまちづくり」(村上敦 著) から、ドイツのフライブルグVauban(ヴォーバン)地区の都市計画を紹介する3 回シリーズ第2回目

 

今回のコラムは、3 つの魅力から2つ目のポイント「クルマのないまちづくり」、その都市計画の魅力をご紹介します。

1回目でもお伝えしたとおり、Vaubanの都市計画の魅力は以下の 3 つ。

 


Vaubanの都市計画ポイント 3つ

 

1:ビオトープネットワークによる緑豊かなまちづくり

2:クルマのないまちづくり

3:エネルギー消費が半分以下になるまちづくり


 

Vaubanの住宅地の約4分の3の範囲はカーフリー住宅地です。では、その「クルマのないまちづくり」の動機・目的とは何なのか?

 

それらは、人と道路とクルマの関係をじっくり考える事で見えてくると言います。

 

|「 道 」の役割

 

1950年後半から自動車利用が急拡大発展し広く大衆化しました。それはモータリゼーションと呼ばれ、自家用車が一般家庭に普及することで「道」は移動するためだけのもの、とりわけ「車のため」だけに存在するようになりました。

 

 

 モータリゼーション以前、「道」は移動するためだけのものではなく、人の(コミュニケーションする)情報交換の場でもありました。「道」で物が売買されたり、子供は遊んだり、etc.、かつて人々にとって「道」とは最も身近で、重要な交流の場としての機能がありました。

 

 

しかし、モータリゼーション以降は、その「道」が持つ重要な「交流の場」としての機能が失われ、街が寂れていきました。

 

 

このようにして 「道」 から人々が忽然と消えた のです。

 

Vauban住宅地では、そんなクルマへの依存から脱却し、かつてのようにコミュニケーションを受け持つ「道」の役割を取り戻し、さらに現代に合わせアップデート。クルマ優先でない道路を構築する取り組みを行っています。

 

すると、道路にクルマではなく、徒歩や自転車の人々が行き交い、自然と街が活気づきます。地方によくある宣伝頼りですぐに飽きられるような大型商業施設開発など行わなくても、自然な流れで人々が行き交い、集う場所になっていくのです。

 

このような仕掛けは、環境や人々にやさしくサスティナブル(持続性可能)だといえるのではないでしょうか?

 

|住宅地の75%がカーフリー

 

先ほどふれたように、このカーフリーとは街からクルマをなくすこと。なくすと言っても、所有しないとか乗らないというではありません。Vauban地区のカーフリー住宅地の定義としては、住人がマイカー使用を削減する仕掛け(コンセプト)がある住宅地を総体として「カーフリー住宅地」と呼びます。Vauban地区の4分の3(75%)がカーフリー住宅です。

次に説明するのは、その車をまちから無くすカーフリーの仕掛けの具体的な方法、カーポートフリーやカーシェアリングやカーリデュースなどについてです。

 

・カーポートフリー(Carport Free)

 

カーポートフリー住宅地(駐車場禁止住宅地)とは、住宅地の居住区内に駐車場を作る事が禁止されている住宅地のことです。

 

住民は車を所有するが、個々の住宅の敷地内には駐車スペースを持たないということ。

 

Vaubanでは、住人の所有するマイカーの駐車場は、住宅地の進入部、あるいは幹線道路との交差部分に作られました。住人がマイカーを利用する際には、住宅からこの駐車場まで歩くか、または自転車で行かなければなリません。そのマイカーの利用が終われば、家の前にはクルマを停めるのではなく、住宅地の端の駐車場に停めます。

 

日本の大型マンションなどでも駐車場はマンションの裏に作り、人とクルマの接触を避けて設計されています。これも住人の暮らしと直接接触させないという配慮の設計ですが、これはVaubanのカーポートフリー住宅とは違います。

 

Vaubanにおける「カーポートフリー住宅地」とは、マイカー利用の便利さを妨げることでクルマの利用頻度を低下させる、という意図を明確に持たねばならないのです。

 

・カーシェアリング(Car Sharing)

 

Vauban(ヴォーバン)住宅地では多数のクルマなし世帯が住んでいます。彼らがマイカーを手放す決断を促進したのが「カーシェアリング」という制度です。

 

住民は個別に車を所有せず、他人(個人やシェア企業)と共有するということです。使いたい時だけ車を使える権利を共同で持つのです。

 

また、カーシェアリング共有車の駐車場は、一般の自家用車の駐車場よりも住居にとても近い場所に設置されています。これにより、この住宅地ではマイカーよりもカーシェアリング共有車の方が便利で、かつ使用しやすい状況になっています。

 

・カーリデュース(Car Reduce)

 

Vaubanでは、住宅地をカーポートフリー住宅地(駐車場禁止住宅地)にしたとしても、住人たちがクルマを利用しない事を不便と感じさせない仕掛けがあります。

 

その仕掛けのひとつに「カーリデュース住宅地」と呼ばれるものがあります。

 

Car Reduceの「reduce」とは英語で「減らす」という意味です。

 

クルマの利用を抑えたカーリデュース住宅地とは、クルマが住宅地内に入りにくい構造・規制・取り組みを行い、暮らしの場でのクルマとの接触をできる限り低減させよう意図した住宅地のことです。

 

Vaubanでは、生活道路に対して次のような4つのカーリデュースの取り組みを行ないました。

 

1:生活道路は、コの字型あるいは、I型などの通り抜け禁止道路に

2:生活道路は、子供たちが遊ぶ事を前提にした「遊びの道路」に指定

3:生活道路は、幅4mでクルマ通行するのにギリギリの幅に

4:生活道路は、最徐行速度に制限

 

・その他の仕掛け:優先措置

 

1:適度に人口密度を高める設定

2:公共交通機関の促進措置(停留所の徒歩圏内に住宅を計画)

3:住宅地内の徒歩圏内に買い物施設がある

4:住宅地内に職場を確保

 

|車を持たない世帯が35 %

 

2006年のデータではVaubanのカーフリー住宅地に約1200世帯が住み、その内450世帯がクルマなしです。およそ3分の1の世帯がクルマを持たずに生活できていることになります。

illustration by vectornator. Thanks for Vectorator.

マイカーに代替する交通手段の中でひときわ効果的だったのは、徒歩やカーシェアリングへの取り組み。その施策の効果が、このクルマなし世帯の数の多さに大きく影響しました。

 

そして、車を買って所有・管理しなくても不便なく生活できるならば、それは環境だけでなく家計にもやさしいのです。

 

|暮らしの質を高める徒歩の暮らし

 

Vaubanでは、Die Stadt der kurzen Wege(近距離移動のまち)というコンセプトにより、住宅地内に多くの雇用を発生する仕組みを基礎にしつつ、中央のヴォーバン通り沿いにたくさん商店があるなど、近距離(徒歩や自転車)圏内で住民たちの生活が成り立って、循環するようにします。

illustration by vectornator. Thanks for Vectorator.

近距離(徒歩や自転車)移動を推奨する施策で最も重要なのは、徒歩で行ける場所に「移動の目的地」を作ることです。目的地がないのに、いくら歩道や歩行者用道路を整備したとしても徒歩交通は機能しません。

 

勤務先や買い物する場所など、短距離の目的地を多く住宅地内に設けることで、自動的に徒歩での移動が発生します。

 

それらの効果で「道」から失われていた元々の役割であるコミュニケーションが発生し、多くの人々が会話する通りができ、にぎやかで活気のある「まち」が出来上がります。

 

そして、本来の「道」に人々が戻ってきたのです。

 

|まとめ:日本でクルマをなくせるか

 

Vaubanのクルマのないまちづくりの取り組み・仕掛けによって、クルマを持たない人・クルマを利用しない人が、我慢をしない住宅地・不便を感じさせない住宅地が出来上がりました。

 

それは、車が道や人間の生活を支配する現在の社会(車優先社会)との決別を実現した住宅地と言えます。街の道路には徒歩の人や自転車の人が溢れ、街中がにぎやかに、活気づいています。

 

逆に言うなら、街が寂れるのは、自転車交通や徒歩交通が機能しなくなった証拠なのです。マイカー(自家用車)一辺倒の社会の街からは、活気が失われていきます。寂れた街を活気づけるために、Vaubanのクルマのないまちづくりを参考にするのもよいのではないでしょうか。

 

今後、人口が劇的に減少することが確定している日本、高齢化も顕著です。車頼りの社会の仕組みを変えていくタイミングは待ったなしではないでしょうか?

 

我が国には、世界のトヨタはじめ、海外で名の通る車メーカーが複数あります。同様にドイツもクルマづくりは主力産業です。そんなドイツが取り組んだフライブルグでの「クルマのないまちづくり」は、国家産業への批判ととられかねない内容で、実行には強い覚悟を感じられる思い切った施策です。未来に向けた車との共存の新しいスタイル模索とも受け取れます。

 

「覚悟を持って、過去のやり方を変えていく」

持続可能性の追求とはこういうことなのでは?と思います。日本に暮らす全ての人たちの身近な課題として、そろそろ真剣考える時期にきているではないでしょうか。

>>>この検索窓にご希望の言葉(ワード)を入力し検索ボタンを押すと、その言葉を含んだ関連コラムが全て表示されます。
pagetop